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リリカル・グレイヴ エイプリルフール編 「魔道戦屍 リリカル・ファンゴラム 魔法の呪文はケルベロスなの♪」 時空管理局地上本部のある一室、そこに二つの影が佇んでいる。 一人はレジアス・ゲイズ、管理局に長く務める中将。そしてもう一人は彼の秘書であるオーリス女史である。 二人は空中に展開したモニターで、とある管理外世界で入手した死人兵士の各種データを眺めていた。 「オーリス、ファンゴラムの調子はどうだ? すぐにでも実戦に投入できそうか?」 「はい、身体能力や使用火器センターヘッドの整備も万全です。ですが一つ問題が‥‥」 「なんだ?」 「確かにファンゴラムは単純な戦闘能力でならば最強の死人なのですが、何分あの気性ですから他の部隊や魔道師との連携が上手くいっていません‥‥」 「そうか、よし! ではこうしよう‥」 △ 「え~‥‥その‥では紹介します、今日から機動六課に配属された田中・ファンゴラムさんです」 「グウウウレエエイイイヴウウウゥゥッ!!!」 恐怖・緊張・困惑その他諸々の感情でヒクヒクと頬を震わせながらはやてが脇に立った死人を紹介する。 紹介された最強最悪の死人兵士は幽鬼の如く低い声で意味不明の呻きを漏らした。 ファンゴラムを紹介された機動六課の面々は一様にはやてと同じく顔をひくつかせている。 まあ無理も無いだろう。 なんせ黒い帽子とコートに身を固め、顔には口元を覆う拘束具を付け、背中に2メートルは優に超える超巨銃を携えた死人が突然やって来たら普通の人間なら腰を抜かしてもおかしくはない。 ファンゴラムは通常魔道師との連携を養う為に機動六課に一時出向という形で配属になったのだ。 言うまでも無くこれはレジアスの差し金であるが、上層部で決められた事情をなのは達が知る由はない。 「ねえ、はやてちゃん‥‥」 「なんやなのはちゃん?」 「“何”から突っ込めば良いの?」 「‥‥‥できればあんま突っ込まんで欲しいんやけど‥」 「無理だよ! それ絶対無理だよ!! そもそも“田中”って何!? どう考えてもやっつけ仕事で考えてるよ!!!」 「まあ‥‥なのはちゃん‥少し落ち着いて」 「落ち着けないよ! しかもあの人(?)なんでスバルやティアナの隣にいるの!?」 「ああ、それなんやけどな。ファンゴラムさんはスターズに配属‥」 「ちょっ! こ、困るよ!! 私あの人と上手くコミュニケーションとる自身ないよ」 「そんな事言ったら誰だって同じやと思うんやけど‥‥ともかくよろしく頼むっちゅう事で‥」 「ま、待ってよぉ~」 はやて、そう言うとそそくさと立ち去っていく。 後には機動六課前線メンバーと最強最悪の死人兵士がぽつんと立っていた。 なのははチラリと異形の死人に視線を移す。 ファンゴラムは“指示待ち”とでも言いたげな様子でジ~っとなのはを見つめていた。 ぶっちゃけなのはは泣きたかったが、9歳のころから鍛え続けた鋼の精神で恐怖心を捻じ伏せてファンゴラムに笑顔で話しかける。 「そ、それじゃあ‥‥訓練を始めましょうか‥えっと、ファンゴラムさん」 「ぐるううああぁぁっ‥‥了ぅぅぅ解ぃぃぃっ」 ファンゴラムの言葉は完全に人外のレベルに入るくらいの滑舌の悪さであったが、その様子からなんとか最低限の意思疎通を図ることが出来た。 こうして奇妙な新人、スターズ05が生まれた。 △ 「ぐるうううぅぅあああああぁぁっ!!!!」 野獣のような死人の叫びと共に、空気を震わせる超爆音が響き渡り地獄の番犬が壮絶な咆哮を上げる。 吐き出された巨銃の弾丸は大気を切り裂きながら正確に標的である訓練用ガジェットに命中する。 絶大なる破壊力を持つ無慈悲な弾頭は、容易く敵の装甲を貫き抉り爆ぜ飛ばす。 こうして機動六課の訓練場には死人の築き上げた無数の鉄屑の山が出来た。 その光景を確認した教導官は若干頬を引きつらせながらも、笑顔でこの日の訓練の終了を告げる。 「仮想敵ターゲットを全て撃破。よし、今日の訓練はこれで終了だね」 「「「「はいっ!」」」」 「ぐるあぁぁっ!」 フォワード5人(?)は元気良くなのはに挨拶して訓練を終える。 最初は不安だらけだったファンゴラムの機動六課への配属は思いのほか問題なく進んでいた。 訓練を終えたフォワード一同は食堂に行き食事の時間にする。 正直に言って、年頃の少女達に混ざってファンゴラムが食堂で食事をする姿はどこまでも悪夢的だった。 椅子のサイズは明らかに合ってないし、背中に背負ったセンターヘッドが邪魔極まりない、そして何よりも彼の食事風景は見るに耐えない惨事である。 ファンゴラムは食事を取る為に顔につけていた口を覆う拘束具を外す、すると頬から顎まで肉の抉られた顔が露になった。 筋肉やめくれた皮の内側の晒されたファンゴラムの顔はもはやホラー以外の何ものでもない。 あまりのグロテスクな光景に最初の内は吐く者さえいた程だ、今でこそ少しは慣れた光景とはいえど多くの者は青ざめた顔で頬をヒクヒクとさせていた。 「はははっ(乾いた苦笑い)、いつも大変ですねファンゴラムさん‥」 「そうでもぉぉないぃぃ」 ファンゴラムはスバルの言葉に相も変らぬ重低音の不気味な声で返す。 彼が同じテーブルにいるとかなり空気が重い気がするが、そこは鍛えた精神で耐え切る。 「そう言えばどうしてそんな風なケガしてるんですか?」 キャロのなんでもない質問にファンゴラムは突然カタカタ震えだす。 そして血涙でも流しそうな強い眼光で睨み、口を開いて腹の底から搾り出すような重低音の声で話だす。 「グウウウレエエイイヴウウゥゥッ!!!」 「グレイヴ?」 「仲間ぁぁぁ、殺しぃぃたあぁぁぁ、同ぁじいいぃぃ死人がぁぁぁ、このおぉぉ悪魔ぁぁめええええ!!!」 ファンゴラムの顔は目玉が飛び出そうな程見開かれ、口は筋肉とめくれた皮を大きくさらけ出して牙を剥く。 あまりの迫力に気を失うキャロとエリオ、スバルとティアナ涙目、食堂に集まったその他機動六課の一同も逃げ出す始末。 なのはとフェイトはこの惨事にいつもは決して出さない情けない声で泣いた。 「もうイヤ~! はやてちゃんレジアス中将に言ってなんとかしてもらってよぉ、このままじゃフォワードが壊れちゃうよぉ~(精神的に)」 「むしろ私はもう壊れかけだよぉ~」 しかしはやては既にリインや守護騎士達と一緒に逃げていた。 後にはただなのは達の悲鳴とファンゴラムの雄叫びが食堂に響き渡っていた。 終幕。 目次へ
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レオパルド 人間 男性 30歳 聖騎士 CV:小野健一 生い立ち 戦時中まだ騎士見習いだった頃、アンネリーゼの祖父ガートルード・フィッジェラルドとの戦いで重傷を負う。 ガートルードはレオパルドをフィッジェラルド家に匿い、アンネリーゼの母オリヴィアに看病させる。 レオパルドをシルヴァリアに送り返す際、ガートルードは殺される。 18歳になり一人前の騎士になったレオパルドは、そんな負い目と恩を返す為フィッジェラルド家に仕え始める。 アンネリーゼは死んでも護る勢い。 生え際やばい。 能力 パリィ 回復魔法 料理
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特定(定番)の書き込みを行う為に毎回ほぼ同じ行為を行うキャラのこと。 共有キャラであるとは限らず、特定の人が専用で使用する場合もある。 狙撃・ガードなどを行うことが多いが、 被弾率向上の歌・被弾率向上の応援・被弾率向上の踊りといったサポートを行うことも少なくない。 レオパルドンに対するマンモスマンなどのように一発アバター同士での掛け合いもしばしば見られる。 被弾してもしなくてもネタになるキャラと、 被弾してからが真骨頂のキャラがいる。
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【仮面ライダーリリカル龍騎】 カードデッキ(王蛇) 柊かがみに支給。 仮面ライダー王蛇に変身するためのカードデッキ。 契約モンスターは毒液を吐く紫の大蛇・ベノスネーカーと、巨大な角と頑丈な装甲を持つ鋼の犀「メタルゲラス」。 出典元「仮面ライダーリリカル龍騎」では現在この2匹と契約している。即ち、残り1枚の契約カードを所持している事になる。 12時間毎に生きた人間の餌が必要。詳細な制限は【制限一覧】を参照。 カードデッキ(ベルデ) 万丈目準に支給。 仮面ライダーベルデに変身するためのカードデッキ。契約モンスターは人型のカメレオン「バイオクリーザ」。 出典元の「仮面ライダーリリカル龍騎」では、リリカル龍騎世界のプレシア・テスタロッサがこのカードデッキを使用していた。 12時間毎に生きた人間の餌が必要。詳細な制限は【制限一覧】を参照。 カードデッキ(龍騎) クロノ・ハラオウンに支給。 仮面ライダー龍騎に変身するためのカードデッキ。契約モンスターは炎を吐く真紅の龍、「無双龍ドラグレッダー」。 12時間毎に生きた人間の餌が必要。詳細な制限は【制限一覧】を参照。 カードデッキ(インペラー) C.C.に支給。 仮面ライダーインペラーに変身するためのカードデッキ。契約モンスターは大量のレイヨウ「ギガゼール」・「メガゼール」。 それらを束ねる「マガゼール」・「ネガゼール」と、その頂点に君臨する「オメガゼール」。 12時間毎に生きた人間の餌が必要。詳細な制限は【制限一覧】を参照。 カードデッキの複製(タイガ) シェルビー・M・ペンウッドに支給。 仮面ライダータイガに変身するためのカードデッキに酷似したハリボテ。 変身能力は持たないが、持っていると鏡の中のミラーモンスターの姿が見える。 サバイブ"烈火"のカード アレックスに支給。 使用する事でカードデッキを持つ仮面ライダーをサバイブへとパワーアップさせる事ができる。 劇中では仮面ライダー龍騎のみが使用したが、別のライダーが使用しても同様にサバイブ化は可能。 ただしこのカードでパワーアップする事が出来るのはサバイブ後が公開されている龍騎・ナイト・王蛇のみとする。 双眼鏡 ブレンヒルト・シルトに支給。 城戸真司の私物でビルの屋上から隣のビルの部屋が丸分かりになるほどの性能。 フリーズベント フェイト・T・ハラオウン(A s)に支給。 仮面ライダータイガのアドベントカード。相手のモンスター1体を凍らせることができる。 【NANOSING】 .454カスール カスタムオートマチック ディエチに支給。 常人に扱えるサイズを遥かに超えたアーカード専用の銀色に輝く巨大な拳銃。 全長39cm、重量4kg、ランチェスター大聖堂の銀十字を鋳溶かして作った.454カスール(13mm)弾規格の爆裂徹鋼弾頭を使用。 アーカード曰く「こいつを食らって平気な化け物なんかいない」とのこと。恐らくアーカード自身にも通常の弾丸よりは有効なダメージを与えられるものと思われる。 銃本体はモルゲンクルノデウム鉄鋼で作られており、硬くて頑丈。その威力とサイズから撃った時の反動も強いと思われる。 インテグラのライター ルルーシュ・ランペルージに支給。 インテグラが携帯しているアンティークな外観のライター。 ウォルターの手袋 クアットロに支給。 ウォルターが戦闘時に身に付ける手袋。 それぞれの指先には鋼糸が一本ずつ付いており、それを振り回す事で敵を切り刻む事が可能。 また、この鋼糸を編みこむ事で盾にする事も可能。 使いこなすには相当の技量が必要になる。 C4爆弾 ザフィーラの支給。 プラスチック爆薬の一種。 テント一つを中にいた人ごと木っ端微塵に吹き飛ばすほどの威力がある。 対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル 神崎優衣に支給。弾丸は全6発。 全長39cm、重量16kg。純銀製マケドニウム加工弾殻に法儀式済み水銀弾頭、装薬にマーベルス化学薬筒NNA9を用いた専用の13mm炸裂徹鋼弾を使用する。ウォルター曰く「人類には扱えない」。また、アーカード曰く「これならアンデルセンすら殺しきれる」。また、銃身には「Jesus Christ is in Heaven now」と刻まれている。 対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカルの予備弾 神崎優衣に支給。全30発。 ジャッカル専用の弾丸を詰めた物。 トバルカインのトランプ 天上院明日香に支給。 トバルカイン・アルハンブラが武器として扱うトランプ。人体を容易に切り裂く切れ味を持つ。 作中では空中で軌道を操る、自らの変わり身として使うなどといったテクニックを見せたが、 これはトバルカインの吸血鬼としての力によるところが大きいと思われる。 バヨネット 遊城十代に支給。 アレクサンド・アンデルセンが刀剣のようにして用いている銃剣。 祝福儀礼が施されており、アーカードに対しても有効なダメージが与えられる。
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「ドクター、少しよろしいですか?」 とある遺跡の地下に建てられた研究所、スカリエッティは今までの研究の成果を纏めていると、後ろから呼ぶ声がした。 「どうしたんだい?ウーノ」 「あの男の話、本当に信用なさっているのですか?」 あぁ、あの話か…と思い返しながらも、ドクターはデータを纏め続けていた。 だがしかし…確かにウーノが言う通り、彼レザードが話した話はまるで、おとぎ話のような信じられない内容だった。 リリカルプロファイル 第二話 魂 レザードが居た世界は、世界樹ユグドラシルを中心に形成された三重世界で、 人間の世界ミッドガルド、死者の世界ニブルヘイム、神の世界アスガルドとそれぞれ呼ばれていた。 ある時、神の世界の王オーディンは、やがてくると予言された神々の黄昏“ラグナロク”に備え、 とある神をミッドガルドに派遣、その神は人々から“魂を選定する者”と呼ばれ、その名の通り魂を選定し、 選定された魂は、神の先兵エインフェリアとして神の世界に送られ、神の為にその力を振る事を約束されていた。 そして“ラグナロク”が訪れた日。神の王オーディンは裏切りの神の手によって倒れ、 世界は海に沈み、滅んだかに見られたが“魂を選定する者”が新たな創造神として世界を再生させたのだ。 一方レザードは“ラグナロク”を乗り切るため、賢者の石と呼ばれる石の力を使い乗り切るのだが、 “ラグナロク”後の世界は、レザードにとって望まぬ世界だった。 其処でレザードは過去へと飛び、とある王女の旅に同行、 目的である神の力を得ると、自らが望む世界を創った…というものだ。 「ウーノの気持ちはわかるが、彼は嘘をついて無いよ」 レザードの中に封じられている力、見た事の無い術式など、レザード自身が証明であるとスカリエッティは答える。 だが…神が住む世界、過去へと飛ぶ術式、魂の存在など、今まで比喩的表現でしかなかったものが証明されている世界。 …スカリエッティは思わずつぶやいた。 「もしかしたら、彼が住んでいた世界こそ、我々がアルハザードと呼んでいる世界なのかもしれない……」 アルハザード…かつて魔法を究めたとされる古代世界… その住人の可能性がある人物が目の前に、それも計画に一役担っている。 …今まで休むことなく動いていた手が急に止まり、考えにふけるスカリエッティ。 「……ドクター?」 「…………うん、すまないウーノ、残りのデータを纏めておいてくれたまえ」 「分かりました……それでドクターはどちらへ?」 「ちょっとレザードと話をしてくるよ」 ウーノにそう告げると、足早に部屋を後にする。 彼の話を耳にしてから去来する一つの想い…それを可能に出来るのは彼しかいない、とスカリエッティは思っていた。 此処はスカリエッティによって割与えられた部屋、レザードは此処でこの世界の魔法及び技術を調べていた。 まず、この世界の魔法はデバイスと呼ばれる道具によって使用する事が一般である事。 更に魔法をプログラム化させる技術により詠唱を大幅に短縮出来る事、魔力を属性に変換させて使用するのは珍しく、 むしろ魔力そのものを圧縮、放出、また形状、性質を変化させて攻撃するのが主流だということ。 そしてデバイスには、非殺傷設定が存在することである。 非殺傷設定とはどれだけ強力な攻撃でも、たとえその攻撃が死に値する攻撃であっても、 気絶、もしくは昏睡にとどめるシステムだという。 「非殺傷設定…まるで生粋のマゾヒストかサディストが考えたような設定ですね」 そんなことを考えて苦笑いる時、後ろでレザードを呼ぶ声が聞こえ、 振り返るとスカリエッティが部屋に入って来ていた。 「ドクター何か用で?」 「君に聞きたいことがあってね、率直に聞きたい……造られたモノにも魂が“宿る”事はあるのかい?」 「やれやれ…いきなり来て、何を言い出すのかと思えば……」 両手の平を広げ肩をすくめ、小馬鹿にした表情を見せるが、スカリエッティは真剣な目レザードを見つめていた。 …レザードはため息を一つ吐き、眼鏡に手を当て問いに答える。 「造られたモノに魂が“宿る”という事は………あり得ません」 レザードがかつて造ったホムンクルスしかり、神の器もしかり、そして戦闘機人も同様だろう。 しかし造られたモノに魂を“宿す”事は出来るという。 レザードによれば彼が得た力の一つに、輸魂の呪と呼ばれる呪法が存在し、 それを活用すれば、モノに魂を宿す事が出来るだろうというものだった。 「なるほど……」 「しかし、なぜその様なことを?」 「…レザード私はね、魂を得たいのだよ」 するとスカリエッティは自分の出生を話し始める。 自分はアルハザードと呼ばれる世界の超技術によって造られた“無限の欲望”と呼ばれる存在で、 名の通り欲望のまま、様々なモノを造り上げ、生命をも研究して来た。 そして次にターゲットにしたものは魂だった。 魂を知る為にあらゆる生物を解剖してきたが、魂の存在を確認する事が出来なかった。 魂など存在しないただの偶像と考え始めた矢先、レザードと出会い、話を聞き胸が高鳴ったという。 「私はね…君の話を聞いてから、魂が欲しくてたまらない!何故ならそれこそが人とモノを分かつ絶対条件だと確信したからだ!」 クローン技術、人造魔導師、遺伝子改造、記憶のコピーなど 生命操作を次々に手掛けていくと、人とモノの境界線が曖昧になっていく。 人とモノの境界線をハッキリさせる必要なファクター、それが魂だとドクターは主張する。 「どうだろうレザード、人とモノの分ける証明の為に、 私に魂を与えてはくれないだろうか?…私は人になってみたいのだよ」 いや、なりたいのかもしれない。造られた存在はただの“物”として取り扱われるこの世界。 それからの脱却の為に魂を得る…むしろこれは革命と言っていいのかもしれないと、 熱く語るスカリエッティの言葉を、黙って聞くレザード。暫くして考えが纏まったのか口が開き始める。 「……特に問題はないですが、一つ条件があります」 そう答えたレザードは左胸の裏ポケットから一つのケースを取り出す。中には銀色の髪が数本入っていた。 「この髪の毛を元に戦闘機人を造って貰いたいのですが」 「ふむ、それは別に構わないが、一体誰の毛なんだい?」 「まぁ、“神の毛”…とでも言っておきましょう」 両手の平を開きながら肩を竦め、おどけるレザード。 …これはひょっとしてギャグなのか?と考え込むスカリエッティだが、 戦闘機人製作で魂を得られるのなら、安いものだと、レザードの依頼を快く引き受けた。 レザードにとって無垢の魂を造り出す事は造作もなく、 横になっているスカリエッティの記憶、情報をとある神の技術を応用した術式で読み込み 無垢な魂に刻むと、続いて輸魂の呪の詠唱を始める。 「全てを断ち切る糸よ我其に願う、意を持ちて絡め取りたる魂よ…血と肉と骨を与え、新たなる傀儡をここに紡がん」 これにより魂は、吸い込まれるようにスカリエッティの体に結び付き無事完了。 早速スカリエッティは自分の体を確かめる様に動かし始める。 「………あまり代わり映えしないもんだね」 「まぁ、そんなものですよ、それより約束忘れないで下さい」 あぁ解っている…と頷いて返事し、手渡された髪の毛を持ってスカリエッティは意気揚々と自分の部屋へ帰って行った。 そんな姿を見たレザードは頭に手を当て、やれやれ…と言った表情で見送る。 …暫くしてウーノ達がレザードの部屋にドッと押し掛けてきた。 どうやら、ドクターが自慢するように魂の話をしていたようで、 それに影響されたのか、自分達もまた魂が欲しくなったのだという。 レザードは呆れた表情を浮かべるが、彼女達もまたスカリエッティと同じく造られた存在、 魂という存在に憧れ、欲しがるのは仕方がない事なのかもしれないと考え、一人ずつ丁寧に魂の処置を施した。 「ありがとう“博士”」 「トーレ?その“博士”と言うのは何ですか?」 「ドクターが言っていたんだ。レザードは“博士”だと」 「“博士”………ですか」 レザードは眼鏡を抑え笑みを浮かべる。どうやら本人も満更ではない様だった。 前へ 目次へ 次へ
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リリカル遊戯王GX 第五話 ゾンビ生徒の恐怖! 駆け抜けろライトニング! 「こちら明日香、正門異常なし」 石像等を使って作られた簡易バリケードごしに外の様子を見ながら、 明日香は今やトランシーバーの役にしか立たない多機能の生徒手帳へ告げる。 十代達がいない間、アカデミアに残ったメンバーはモンスターが入ってこないように見張りを続けていた、 レイを襲った相手はすでに内部にいるかもしれないが、だからといってこれ以上侵入されては堪ったものではない。 ――それにしても、まいったわね。 明日香は今朝の食糧配給時の騒動を思い出す。 出来る限り節約するため、今日の朝食はパン一つとわずかな水だけだった、 全員が我慢をしてその明らかに量の足りない朝食を食べていた時、突然一人が「お前のパンの方が大きい!」と側の人間と喧嘩を始めた。 どこの小学生だと明日香や剣山達も呆然としていたが、 殴り合いにまで発展しそうなところでようやく仲裁に入った……エリオとキャロが自分の食事を渡そうとすることで。 「情けなさすぎるわ……」 思わず額を押さえる。 さすがにレイよりも幼い子供から食事を奪う気にはならなかったか、喧嘩をしていた二人も大人しくはなった、だが―― 深い溜息、明日香は十代達、それと付近の偵察に出たフェイトが早く帰って来る事をひたすら祈る。 「三沢君も見張り手伝ってくれればいいのにー」 明日香がいる場所とは別のバリケードで、翔は呟く、 事故によって飛ばされた三沢にはデュエルディスクがなく、当然魔法も使えない彼はモンスターへの対抗策がないため危険な見張りからはずされていた。 今は一心不乱に複雑な計算式をあたり一面に書き続け、自分の頭脳で元の世界に戻る方法を見つけようと奮闘している。 「でも、三沢さんも元の世界に戻るため頑張ってるようですし、私たちも頑張りましょう!」 「う、うん……」 キャロの言葉に翔はわずかに顔を赤くしながら頷いて答える。 はっきり言って、翔は可愛らしい女性にはとことん弱い、デュエルモンスターのカード、ブラック・マジシャン・ガールに恋をしているぐらいだ。 そしていくつもある次元世界の中でも間違いなく「とびっきり可愛い」部類に入るであろうキャロが隣にいるのだ、気が気ではなかった。 キャロは確かに子供である、だが、自分の身長を考えると意外とお似合いなのではないだろうか? そんな少し危ない妄想に翔が入りそうになった時、一人の少年の声がその妄想を打ち砕いた。 「キャロ、戻ったよ!」 「エリオ君、おかえり!」 偵察に出ていたエリオ(とフリード)に明るく応えるキャロに思わず項垂れてしまう。 自分との会話と随分温度差があるように感じた、何よりとても親しげだ、間違いなくこの少年は自分なんかよりお似合いだ。 翔は気づかれないように一つ息を吐く、 どうやら、この世界は現実逃避すらさせてくれないようだった。 一方その頃、アカデミア内に些細な喧嘩が起こっていた。 パンの大きさでもめていた二人、その一人が自分で持っていたチョコレートを食べているのを見つけて口論になっていたのだ。 ……もはや明日香でなくても頭を押さえたくなる状況である、そんな二人に、一人の生徒が近づいていった。 ――闇、心の闇……駒に相応しい。 食糧保管庫の前で、万丈目は一人座り込んでいた。 「まったく、この万丈目サンダーが何故見張りなど……」 今朝の騒動からも想像できる通り、空腹から来るストレスは相当な物になっている、 配給だけでは満足できない者が食糧を盗もうと動くことは容易に考えられた。 「兄貴~、おいら達もお腹空いた~」 「ちょっとぐらいもらってもー」 「この馬鹿ども! 見張ってる本人が盗みを働いてどうする!?」 「でも~、もうお腹減って死にそう~」 「精霊が空腹で死ぬというなら、十代のはねクリボーはどうなる! もう少しまともな嘘をつけ!」 おじゃまトリオを鬱陶しそうに払っていると、一人の生徒が近寄ってくるのが見えた。 顔を伏せ、おぼつかない足取りのその男に眉を顰めながら万丈目は警告する。 「おい貴様、食糧を求めてきたならば渡すことはできん、今すぐ帰れ!」 「あ、兄貴……あいつ、なんだか様子が変よ~?」 おじゃまトリオもその男の様子に怯えて万丈目の後ろに隠れるように下がる。 ――まるでゾンビだな。 そんな事を思いながら警告を聞かずに近づいてくる男に向けてデュエルディスクを構えた、 実体化したモンスターの攻撃で怯えさせる――それだけならばデスベルトの影響も少ないと考えていたが、そこで男に変化が現れる。 「……デュ、エル……」 「デュエル? 貴様、この俺にデュエルを挑もうというのか? 身の程知らずが、一瞬で終わらせてやる!」 「あ、兄貴、デスベルトは……」 「ふん! 挑まれたデュエルを受けないなど、俺のプライドに反する!」 そして万丈目と男のデュエルは始まり――あっという間に終わる。 手札に恵まれた万丈目が1ターンキルをやってのけたのだ。 デュエルに敗れた男はその場に倒れ、そこでようやく「デュエルに敗れた者がどうなるか」ということを思いつく。 「お、おい、無事か?」 「う……」 万丈目の呼びかけに男は呻き、命は無事だと胸をなでおろ―― 「何だ……!?」 「あ、兄貴~!」 倒れていた男がむくりと起き上がる。 それだけならばまだわかる、だが、 その後ろから目の前の男と同じような不気味な足取りで何人もの生徒がやってきていた……これも100歩譲ってよしとしよう、 一番異常だと思えるもの、それは―― 「デュエ、ル」 「デュエルしよう……」 「でゅえる、デュエルー」 全員がデュエルディスクを展開してデュエルを迫る、 さすがの万丈目でもこの光景には恐怖を感じてしまう。 だが生徒――もはやデュエルゾンビだ、ゾンビ達は万丈目を逃がさないようにか、取り囲むように歩いてくる。 「お、おい、待てお前ら……!」 「デュエルー!」 ほぼ強制的に、ゾンビの一人とデュエルを開始させられてしまう…… 「……?」 「どうしたんです、フェイトさん」 見張りを交代しアカデミア内で休憩していたフェイトは、辺りを見回して違和感を感じる。 「……人数が、少ない」 「え?」 フェイトに言われ明日香も体育館にいる生徒たちを見渡す。 確かに言われてみれば少ないようにも感じるが……別にここから動くなと言っているわけではない、 むしろグループで行動している人たちがいるのなら、人数が少なく見えるのはそれほどおかしいこととは思わなかった。 「考えすぎじゃないでしょうか?」 「そうだといいんだけど……エリオ! キャロ!」 嫌な予感、執務官としていくつもの事件や世界を回った彼女だからこそ感じ取れる独特の感覚が抜けなかった、 それを拭い去るため、キャロにこの場の守りを任せてエリオと共に見まわりに出る。 「少し慎重すぎじゃないかしら、あんなに気を張り詰めてたら倒れちゃうわ」 「フェイトさん、いつも自分の事を後回しにしちゃうんです……でも、だからこそ私とエリオ君でお手伝いするんです!」 「あなた達は、本当に強いわね……」 「俺の……勝ち、だ」 すでに十戦目……万丈目は次々に来るゾンビ達とひたすらデュエルを続けていた。 一度倒しても、他のゾンビと戦っている間に起き上がって挑んでくる、 万丈目はデスベルトの影響でどんどん弱っていき、デュエルでも戦略を考えるだけの思考能力が失われていくのを感じていた。 「く、くそ……おいお前ら……少しは、休ませろ……」 苦し紛れに呟くが、言葉など聞こえていないかのように万丈目へ近づいていく。 「ま、待て……落ち着け。そ、そうだ、今なら俺の弟子にしてやっても構わないぞ……? な、なんだったら秘蔵の天上院君の……」 これ以上デュエルをしたらまずい。 万丈目は自分の体の限界を感じ、なんとかその場を収めようとするがゾンビ達は変わらず万丈目を追い詰める。 壁際に追い込まれ、ゾンビ達から逃れる術もなく遂に―― 『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』 「っ! エリオ、今の声!」 「はい、食糧庫の方です! 今の声は……万丈目さん!?」 フェイトとエリオはデバイスを起動して全速で食糧庫へと向かう、 その途中、ゾンビ生徒にデュエルを迫られている一人の女子生徒を見つけた。 「いい加減に、してよね……これ以上やったら、デスベルトのせいで倒れちゃうわよ……」 「でゅ、える……」 「ああもう、嫌だってば!」 焦れた女子生徒がデュエルディスクをはずしてゾンビ生徒へ投げつける、 ディスクが当たっても何事もなかったかのように―― 「違う!? バルディッシュ!」 『Sonic Move』 高速移動魔法を使って女子生徒の目の前に行き、バルディッシュを構える、 その直後、巨大なネズミが飛びかかって来たのをギリギリで受け止めていた。 ―巨大ネズミ― 攻撃力1400 守備力1450 効果モンスター 「フェイトさん!」 「エリオ、ここは私が押さえる! 食糧庫へ!」 「っ……はい!」 少し迷いながらも、エリオは食糧庫へと急ぐ。 フェイトは突然実体化したモンスターで攻撃しようとした生徒を睨みつけ……恐怖する。 生気が感じ取れず、虚ろな目でこちらをただ見ているだけ……何かをしようという、生きようという意思さえ感じ取れなかった。 「な、何なのよ、これ……」 「落ち着いて、どこかに隠れて隙を見て逃げ出して」 フェイトの言葉に怯えながら少女は逃げていく、 それを横目で見て、目の前のモンスターへ斬りかかる。 「はぁぁぁ!!」 「罠カード、攻撃の無力化」 いつの間にか伏せられていたカードが開き、モンスターの目の前に空間の歪みが現れバルディッシュの斬撃を飲み込んでしまう。 始めて見る罠カードにフェイトは慌てて下がろうとするが、すでに巨大ネズミはフェイト目がけてその大きな前歯を向け噛みつこうとしていた。 「っ――盾!」 円形の防御障壁、ラウンドシールドを展開しかろうじて攻撃を受け流す。 間合いを放してバルディッシュに魔力を集中、一気に解き放つ。 「プラズマスマッシャー!」 雷撃を纏った魔力砲撃が直撃し、耐えきれずに巨大ネズミは破壊される。 ――次の手を打たれる前に魔力ダメージで昏倒させる! しかし、フェイトの動きを一つの悲鳴が止めた。 「いやぁ! 離して!」 「なっ!?」 見れば先ほどの少女を、今倒したはずの巨大ネズミが捕えていた。 予想外の事にフェイトの思考は一瞬止まり……次の瞬間にはバルディッシュのAIと共に何十通りもの救出方法をシュミレートしていく、 その間にも巨大ネズミはその口を大きく開き、恐怖で完全に動きを止めた少女へと噛みつこうとしていた。 普通の人間では頭がパンクする量の行動パターンを一度に考えるが―― ――ダメ、どれも間に合わない! 現実は無情だ、どれだけフェイトが手を伸ばそうとそれは届くことなく、巨大ネズミの歯は少女の胸に突き刺さる! 「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」 『Trident Smasher』 怒りの咆哮と共に、その名の通り三又に分かれた魔力砲撃が巨大ネズミを貫く。 急激に魔力を消費しフェイトは荒く息をして少女を見る。 少女は倒れたまま動かない、当然だ、あんなモンスターに心臓を貫かれたら無事でいるわけがない。 ――守れなかった……! 私は、すぐ側にいたのに……!! 義兄がいたら「執務官が感傷に浸っていてどうする!」と怒鳴りつけていただろう、だが、ここにその義兄はいない、 フェイトはふらつきながら、かろうじてモンスターを呼び出した生徒を確保しようとし――気づく。 「え……!?」 『周囲、完全に包囲されています……エリアサーチ、反応区域が制限されている……!?』 無口で冷静なフェイトの相棒が珍しく焦ったような報告をしてくる。 フェイトの周りは何十人というゾンビ生徒で埋め尽くされていた、 そのうちの何人かはすでにモンスターを呼び出し、いつでも攻撃をできるような体制に入っている。 だが、逆にその状況がフェイトの頭を冷やし、止まっていた思考回路を急速に回復、加速させていく。 「バルディッシュ、まずはこの包囲を抜ける。その後エリオと合流、可能なら万丈目さんも救出して体育館まで退避! ……いけるね?」 『Yes sir』 「いい子だ」 強行突破の体制に入るフェイトだったが……神は彼女に恨みでもあるのだろうか? 「フェイトさん……」 「エリオ!? 万丈目さんはどうだった? ここは危ないから早く逃げ――」 フェイトの動きが止まる。 さっきとは違う、完全な思考停止だ、 それだけ目の前の状況は彼女にとって信じられず、受け入れたくないものだった。 「え、りお……」 「フェイトさん……」 フェイトとは家族同然の存在、スカリエッティ事件の最後ではフェイトの事を守り、 それ以降も彼女の精神的支えとなっていた少年、エリオ=モンディヤル、彼は―― 「僕と戦いましょう……!」 周囲のゾンビ生徒と、同じ目をしていた――。 続く フェイト「私は、守れない……誰も、エリオでさえも……!」 なのは「フェイトちゃん、しっかりして! 最後まで諦めちゃだめ!」 十代「万丈目! 翔! ちっくしょー! どうして、どうしてこんなことになっちまうんだよ!」 次回 リリカル遊戯王GX 第六話 最高の最悪 エリオVSスバル! スバル「エリオ、絶対に目を覚まさせてあげるからね!」 エリオ「スバルさんも戦ってくれるんですか? 嬉しいなぁ……!」 十代「今回の最強カードはこれだ!」 ―ライトニング1 フェイト=T=ハラオウン― ☆6 効果モンスター 攻撃力2300 防御力1600 名前に「ライトニング」「高町なのは」とついたモンスターが自分の場にいる場合、 その枚数×300ポイント攻撃力がアップする。 このカードが召喚された次のターン以降、魔法カードを二枚捨てこのカードを生贄に捧げることで手札・デッキ・墓地のいずれからか 「フェイト=T=ハラオウン(ライオット)」を特殊召喚できる。 なのは「負けないでね、フェイトちゃん!」 十代「次回もよろしくな!」 前へ 目次へ 次へ
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リリカル遊戯王GX 第九話 学園分裂!? 腹ぺこデュエル! 「レイちゃんは大丈夫?」 なのはの問いに十代は頷いて応え、なのははほっと胸をなでおろす。 昔入院していた時の記憶が頼りの、かなり危ない手つきでの治療だったがうまくいったようだ。 「そっちも、スバル達は平気なのか?」 「うん、言うなれば極端に疲労してるってだけだからね。このまま安静にしてれば問題ないよ……ただ」 なのはの表情が暗くなる。 「フェイトちゃんとエリオは、今のままじゃ戻せそうにない。定期的にバインドを掛け直して暴れないようにするしかないね」 「……そっか」 そんななのはになんと言葉をかけるべきかわからず、十代は小さく頷いた。 状況はあまりいいとは言えなかった。 突然一部の生徒がゾンビ化し、爆発的な勢いで増殖していった、万丈目や翔といった十代と縁深く、頼りになるメンバーまでもがだ。 更にその調査に出たフェイト・エリオの二人までもゾンビ化してしまった、今は拘束しているが、直す手段はない。 レイの救出には成功したものの保健室は倒壊、医療の知識がある鮎川もゾンビ化、アモンやジムもデスベルトによって疲労している、更にスターズの二人も疲労困憊・魔力切れで行動不能…… ……訂正しよう、状況は限りなく悪い。 最も――フェイトとエリオに関しては手段が無いわけではない。 罠カード「洗脳解除」、全てのモンスターのコントロールを元の持ち主に戻すカードである。 他のゾンビ生徒にならともかく、精霊として存在している二人ならばこの効果で元に戻る可能性が高い、 ただ、元々使いどころの難しいカードでもあることから、現在無事な人達の持っているカードにはなかったのだ。 「……そういえば」 「何だ?」 「万丈目君って、食糧庫の見張りをしてんだよね?」 「そうだけど……あ!?」 何を言いたいのかに気づき、十代は愕然とする。 万丈目がゾンビになった……それはつまり、食糧庫もゾンビの集団のど真ん中になってしまったということだ。 更に悪いことに、なのは達の食糧も食糧庫に入れてしまっている。 「まずいぜ……これじゃ一週間どころか、三日も持たない」 「でも、どうしよう……対策の立てようが……」 ただでさえ最低限の食事によってストレスはかなり溜まってしまっている、 それさえ得られないなどということがわかったら――想像したくもない。 「とにかく、みんなには隠しておかないと……って、どっちにしろ飯の時間になったらバレちまう!」 「トメさんが少し食材を運んでたはずだから、すぐにどうなるってことはないだろうけど……」 「少しって、どれくらいだ?」 十代の問いに記憶を掘り起こし―― 「多く見積もっても、一日分……」 重い口調で呟いた…… マルタンは図書室に作られた玉座で上機嫌で微笑んでいた。 手ゴマであるゾンビ生徒はかなりの数となり、残った生徒たちも心の闇を増幅させている。 「もうすぐ……もう少しだよ、十代……」 「……十代……?」 「レイ! 気がついたか!」 目を覚ましたレイに十代とヨハンは喜ぶが、レイは逆に顔を俯かせてしまう。 「私のせいで……マルっちと鮎川先生が……」 「何言ってんだよ! レイのせいじゃない!」 「そうだ、この訳の分からない世界のせいだ。あまり自分を責めるな」 「うん……っ? あは、あはははは! ちょっ、やめ――あはは!」 「れ、レイ?」 突然笑い出したレイに二人は困惑し――不自然に盛り上がっているシーツをめくり上げる。 いつの間に入り込んでいたのか、レイの腹部でじゃれ合っていたヨハンの精霊、ルビーとはねクリボーは気まずそうに十代達を見上げていた。 「ルビー……」 「はねクリボー、何やってんだよ」 「もう……!」 ああくそ、俺と代わりやがれ淫獣共がっ 「近藤君……鈴木さん……この子も、あの子もゾンビになっちゃったノーネ……」 残っている生徒たちの点呼を取りながら、クロノスとナポレオンは肩を落とす。 頼りないが、彼らとてこのアカデミアの教師なのだ、生徒たちを想う気持ちに嘘はない。 「それに、加納マルタン君は相変わらず行方不明……」 「っ!」 ぽつりと呟いたクロノスの言葉にナポレオンはわずかに反応する。 拳を強く握りしめ、マルタンの無事を強く祈り続けていた…… スバルとティアナは眠り続けている。 剣山や明日香、なのはがたまに見に来る以外は、キャロが付きっきりで看病にあたっている。 「……ごめんなさい」 思わず謝罪の言葉がこぼれてしまう。 二人が危険な状況に陥っていることはわかっていたはずだ、それでも自分は明日香達を優先した、 なのはもここに辿りついた時の二人もその判断は正しいと言ってくれたが、フリードだけでなく自分も向かっていればここまで傷つけることはなかったかもしれないのだ。 現に剣山が助けに行かなければゾンビ達に囲まれ、彼らの仲間入りをしていた可能性が高い。 自分を責めるキャロの頭をティアナが撫でる。 「ティアナさん……? いつの間に……」 「ついさっきよ。まったく、そんな顔しないの、キャロがフリードを送ってくれたおかげで助かったんだから」 「でも……」 「あのね、明日香さん達より私たちを優先してたら、それこそキャロの事を軽蔑してたわよ? キャロの判断は正しかった、あの状況では間違いなくベストな選択だったわ、それはなのはさんにも言われたでしょ?」 ティアナの言葉にも、キャロは俯いたまま顔をあげようとしない。 ――まったく、私の周りにいる人は、どうしてこうも優しすぎる人ばっかりなのかしらね。 「キャロ、いい?」 「え?」 「あんたが今考えなきゃいけないのは、私たちのことでも、アカデミアのことでもないわ」 「え……と、それって……」 「そんなのは他の人に任せなさい、あんたは今、一番心配していることを無理矢理隠してる」 その言葉にキャロはハッと顔を上げる。 「私は二人を……エリオ君とフェイトさんを、救いたい……!」 「そう……なら、今やらないことは何? 私たちの看病?」 「いえ……ごめんなさいティアナさん、スバルさん、私、みんなのところに行ってきます!」 キャロが去っていき、ティアナは一つ息を吐いて――すぐ側から視線を感じて体を竦ませる。 「ふふふ……ティア、やっさしー」 「す、スバル……! あんた、目を覚ましてたならそう言いなさいよ!?」 「いやー、だって丁度ティアがキャロの事を諭してたからさー、何だか入りづらくって。うーん、流石ティア、いいこと言うよね~」 「――っ! 動けるようになったら覚えておきなさいよ……!」 「みんな、食事の時間だよー!」 トメさんの声に、体育館にいた全員が反応する。 例え最小限だろうが、食事というものはそれだけで人の心を安らげてくれるものだ。 ……まあ、いくつもある次元世界の中には、一口食べただけで卒倒するような料理を作る義妹から逃れるため、日夜神経をすり減らしている家庭なんかもあるだろうが。 そんな不幸な特例はともかくとして、用意された料理を見て生徒たちは動きを止める。 「何だ、これ?」 「……羊羹?」 「ごめんね……材料がなくて、スープを薄めるしかないんだよ……少しでも食感をと思って、ゼリーにしてみたんだけどさ」 十代やなのはが止める間もなく、 トメさんは食糧の絶対的な不足を話してしまう。 二人はパニックになることを覚悟するが――何の騒ぎも起こらないことに気づく。 別に騒いでも仕方がないことに気づいた訳ではない、 ただ、絶望感がパニックになる気力さえをも上回ってしまったのだ。 「みんな……」 「これうまいぜ! トメさん!」 「ヨハン?」 暗い雰囲気に包まれた中、場違いなほどに明るい声で言いながらヨハンはスープゼリーを食べていた。 それを見て、一人二人とスープゼリーへと手を伸ばし、量はともかくとして、その味には満足そうな表情になる。 「流石トメさんだぜ、うまい!」 「ありがとうねぇ、そう言ってもらえると嬉しいよ」 「ごめんなさい、私たちまで……」 申し訳なさそうに言うなのはへ、トメは首を振る。 「とんでもない! あんたたちは十代君達を守ってくれたんだろう? その上仲間が倒れてるんだ、遠慮なんてするんじゃないよ」 「はい……ありがとうございます」 そう言いながらスープゼリーが三つ乗った皿を持ってなのはは立ち去る、スバル達のところへ持っていくのだろう。 その後姿を見ながら、エリオとフェイトの分を用意してやれなかったことに悔しさを感じる。 ゾンビ化している人間が食事を必要とするかどうかはわからない、だからといって、それを理由に食糧を節約するのは彼女のプライドが許せなかった。 体育館の片隅で、三人の男が話していた。 その三人が最後まで名残惜しそうになのはの持っていった食糧を見ていたことには、誰も気がつかなかった。 ――戦いたい。 フェイトとエリオの考えていることはこれだけだった。 二人は体育用具室でバインドを何重にもかけられ閉じ込められている。 バインドを掛け直す手間を考えたら別に閉じ込めなくてもいいのだが―― まあその、なんだ、ソニックフォームで縛られているフェイトを想像してみたら理由が分かってもらえるかもしれない。 半ば力づくでバインドを破ってはいくが、動けるようになる前にバインドを掛け直されてしまう、 ――このままでは戦えない、なのは達を仲間にしてあげられない。 埒があかないと判断し、どうやってここから抜け出せるか、二人は思考を巡らせていく―― 夜、三人の男が体育館から抜け出していった。 オブライエンが組んだ監視チームの目を?い潜り、ジムや三沢が作ったバリケードの一部を崩して外に出る。 彼らが目指しているのは食糧庫、道中には当然ゾンビが大量にいるのだが――空腹の限界を超えた彼らには、そんなことまで考えていられなかった。 ただひたすらに食糧庫への道を走り続け―― 「うわぁ!?」 当然のごとく、ゾンビ達が立ちふさがる。 三人は必死に逃げるが、まるで誘導するかのように現れるゾンビの群れに堪らず側にあった部屋へと飛び込んだ。 「こ、ここは……?」 「図書室、か?」 この三人はほとんど来たことなかったが、大量の本棚を見れば大抵の人間は図書室を思い浮かべるだろう。 更に耳を澄ませてみると、奥の方から何か音が聞こえてくる。 「おい、この音」 「ああ、誰かが何か食ってる!」 音の正体に気づくと、我先にとその音源へ走り出す、 その下へと辿り着き、優雅にステーキを食べているマルタンと目が合った。 「お、お前、加納……?」 「てめぇ、姿を見せないと思ったら、こんなところで一人で呑気にお食事かよ!」 一人が怒りに任せて肉へと手を伸ばすが、その手をマルタンの異形と化した手が掴む。 怯える生徒へ、マルタンは不適に笑い別のステーキが乗った皿を前に出す。 「欲しいかい?」 「あ、ああ……食いてぇ」 「ふふ、いいよ、食べても……だけど、どれだけ食べても君たちが満たされる事はないけどね」 「ど、どういう意味だ!?」 意味ありげに笑うマルタンへと怒鳴りつける……ステーキを食べながらでなければもう少し迫力があったかもしれない。 「君たちの心の闇は、もう僕の手にある……満たされたいなら、このカードの向こうへ行くといい」 「な、何だ……?」 「融合……?」 マルタンの側に一枚のカードが現れ、三人を導くように光だす。 わずかに戸惑いながら、三人はその光へと吸いこまれるように歩を進める。 そして、そのまま―― 『やあ、十代』 「この声、マルっち!?」 突然放送で名指しされ戸惑う十代の横で、レイが驚きの声を上げる。 「マルっち、どこにいるの!?」 『マルっち……? その呼び方はやめてもらいたいな、それに、今僕は十代と話しているんだ』 「……俺に何の用だ?」 何か危険な空気を感じ、警戒しながら十代は問いかける。 『別に大したことじゃない、少し取引きをしようと思ってね』 「取引き……?」 『君たちは今、僕が支配している生徒たちによって動きが取れない、特に食糧は残りわずかなんじゃないかな?』 「っ! お前が翔達をあんな風にしたのか!?」 『こちらには有り余る食糧がある、それを提供してもいいよ』 マルタンの言葉に生徒たちが活気づく。 だが、十代達は厳しい顔つきでここにはいないマルタンを睨みつける。 「それで、代わりに何を要求する気なの?」 『変電施設、あそこをこちらに譲ってほしい』 「……? あそこは砂で埋もれて使い物にならないぞ?」 「兄貴、いい条件ザウルス」 意図の読めない取引きに十代やなのは達は警戒を更に強めるが、 他の生徒はとにかく食糧を手に入れるチャンスだと深く考えずに乗り気になってしまっている。 「兄貴、交換しちゃうザウルス」 「……いや、捨てるには惜しい場所だ、まだ復旧させられる可能性もある」 「それに、相手が欲しがってるってことは、そこを使って何かを企んでいるってことでもあるからね」 みんなの意見を聞きながら十代は悩み――口を開く。 「取引きには――応じない!」 「なっ!? ふざけるな十代!」 「食糧が手に入るんだぞ!」 周囲の生徒たちが次々と罵声を浴びせるが、十代は不適な笑みを浮かべて叫ぶ。 「だが、その二つを賭けてデュエルで勝負だ!」 『ふふ、そう言うと思ったよ、十代……表に出るんだ、相手はすでに用意してある』 マルタンに言われ、動けないメンバー以外は全員が外に出る。 ……最も、生徒の大半は早く食糧が欲しいからという理由のようだったが。 正門のところにやってくると、見慣れぬ仮面をつけた三体のモンスターがやってくる。 「何だ? あんなモンスター見たことないぜ」 「お、おい、あれ……人間の顔じゃないか!?」 誰かの言葉に全員がモンスターを注目し直し――絶句する。 怒り・笑い・無表情とそれぞれ違う仮面を付けたモンスターだったが、その仮面とは別の位置に、見覚えのある顔が浮かび上がっていた。 「あ、あれは原田君と斎藤君と前田君なノーネ!」 「あの三人、いつの間に……!?」 『ふふふ、彼ら三人とデュエルして、勝ったら食糧をあげるよ』 マルタンの声に十代が前に出ようとするが、ヨハンに止められる。 「お前はまだ鮎川先生とのダメージが抜けてないだろう、俺が行く!」 「あの三人が抜けだしたのは俺の監視体制が甘かったせいだ、俺もやろう」 「バリケードが不十分だったのは俺の責任でもあるからな……OK! 勝負だぜ!」 ヨハン、オブライエン、ジムの三人がそれぞれモンスターの前に立つのを見て、なのはは思考を巡らせる。 はっきり言って、今のなのはに三人を援護する力は無い、 スバルやティアナほどではないにしろエクシードモード、更には非常識な量の魔力球の同時生成など無茶をしすぎた。 更に、デュエル場所をわざわざ指定してきたことも何かが引っ掛かってならなかった、 そんななのはに、キャロが話しかける。 「なのはさん、体育館へ行ってください」 「キャロ?」 「この隙にフェイトさん達の拘束を解かれたら、スバルさん達が危険です」 「っ! だけど、ヨハン君達が……」 「三人なら、大丈夫です……ケリュケイオン、セットアップ!」 強い眼差しで、キャロはフリードと共に三人に近づく。 「三人は、私が援護します!」 「キュルルー!」 続く 十代「こいつら、強い!? ヨハン、耐えてくれ!」 なのは「何なの? とても強い力が動いている気がする……ってナポレオン教頭!? いったいどこへ!?」 次回 リリカル遊戯王GX 第十話 キャロの決意! 突き抜けろスターズ! キャロ「これ以上、犠牲者は出させない!」 なのは「どうしても止まってくれないのなら、力づくででも止めてみせる!」 十代「今回の最強カードはこいつだ!」 ―ライトニング4 キャロル=ルシエ― 光属性 魔法使い族 星3 攻撃力600 守備力1200 このカードは自分の場に「エリオ」「フェイト」「フリード」と名のついたモンスターがいる場合、その枚数×200ポイント攻撃力がアップする。 このカードの攻撃力を半分にすることで、ターン終了時まで別のモンスター一体の攻撃力を300ポイントアップできる。この効果は1ターンに一度のみ発動可能。 十代「ヨハン達のことを頼むぜ、キャロ!」 なのは「次回もよろしくね♪」 前へ 目次へ 次へ
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――俺がいつ生まれたのかは覚えてねぇ―― ――物心ついた頃にはもう此処にいた…デバイスを握ってな―― ――コイツの名はバハムートティア…コイツがそう言ってた―― ――そしてコイツはこう言った……“俺の名”は―― リリカルプロファイル外伝 アリューゼ 此処はとある管理世界の街アルトリア、かつて隣国ヴィルノアと戦争状態であったが管理局が介入、 戦争は一応に終結したが隣国そして管理局との折り合いは悪くなっていた。 その街で一人の男が姿を現す、男の名はゼスト・グランガイツ。 彼が此処に来た目的はヴェルノアに駐在していた魔導師を暗殺した犯人が潜伏しているという情報を得たからである。 空港に着くなり新たな情報を得る為、街に駆り出すゼストであった。 風情のある大通りを歩き横路から路地裏に入ると風景が一瞬に変わる。 路地裏には浮浪者がひしめき合い、中には年半ばもいかない少年少女の姿もいた。 戦後、戦争によって住処を無くした民衆・兵士は行き場を無くし路地裏または街を出て暮らしていた。 狭い路地裏を通っていると、酒瓶を持った無精ひげの男がゼストに話しかけてくる。 「アンタ…この街の人間じゃねぇだろ…こんな所に何の用なんだ」 「人を捜している、コイツだ」 ゼストは懐から一枚の写真を取り出す。 写真には頭にバンダナを巻き、手にはボウガンを持った男が写っていた。 「なんだコイツか……」 「知っているのか?」 「この街でコイツを知らねぇ奴なんざいねぇよ」 スリ・強盗・強奪・詐欺・誘拐・人身売買…数え出したらキリがないと男は語る。 「今回は一体何をしでかしたんだ?」 「………殺人だ」 「あ~あ、とうとうそこまで手を出したか」 男は酒瓶をラッパ飲みすると腕で口元を拭く、どうやらこの犯人はかなりの悪人のようだ。 「コイツの居場所を知らないか?」 「知らねぇな、だがよ奴がよく行く酒場なら知ってるぜ」 そう言うと男は手を差し出す、ゼストは金を握らせると男は話し出した。 酒場は今いる路地裏を進み突き当たりを左に向かった先だと。 ゼストは早速向かうと、情報通り一件の酒場を見つける。 酒場に入ると中には昼間から酒浸りな連中がたむろしていた。 ゼストはマスターから情報を得る為カウンターへ赴き席に着く。 「いらっしゃい、何にする?」 「この男を捜している、此処によく来ると聞いたんだが…」 「コイツか…前まではな…」 ここ最近は顔すら見せていないとマスターは語る。 マスターの話では大きな仕事でも一週間ぐらいで現れるのに、もう二週間近く現れていないという。 ゼストは他に行きそうな場所はないかと聞いてみると、幾つか教えて貰いメモを取る。 「ダンナ、あの男を捜してるんだったら伝えておいてくれ、いい加減ツケ払えってな」 「あぁ、伝えておく」 そう言うとゼストは席を立ち酒場を後にすると、次の場所へと向かった。 ゼストの後方数メートル先、其処に一つの影がゼストを追っていた。 影は屋根まで登るとゼストを上から見つめていた。 ゼストが立ち止まり、右手で懐からメモを取り出し見つめていると、その隙を突いて影が動き出す。 影は身の丈を越える大剣を構えるとゼストに切っ先を向け飛び降りる。 自由落下しながら影はゼストとの距離を詰めて行く。 ゼストに直撃する瞬間、左手を伸ばし大剣の切っ先を掴むと、そのまま相手を見ずにゴミ捨て場に投げつけた。 「何だ?刺客か?」 ゴミ捨て場を睨み付けるゼスト、ゴミ捨て場には足のみが表に出ていたが、すぐに起き上がり姿を現す。 影の正体は上半身は薄汚れたタンクトップ、下半身はボロボロの緑のズボンに裸足、髪は茶色の十代前半の少年であった。 「何だ…ただの小僧か…」 「おっさん!命が欲しけりゃ金目の物を出しやがれ!!」 少年は大剣を向け脅すが、ゼストは見向きもせず背を向けその場を後にしようとする。 少年は無視するな!っと言った表情で大剣を振り下ろすが、難なくかわされる。 「今お前に構ってやれる時間はないんだがな」 「うるせぇ!さっさと出しやがれ!!」 少年は左右からのけさ斬りや、突きからの斬り上げ、更に前宙からの振り下ろしなど怒涛の連撃を行うも、ゼストには掠りもしなかった。 少年は怒涛の連撃に疲れを見せ始めていたが、気合いを入れ直し大きく振りかぶると、真っ直ぐゼストに向け鋭い一撃を繰り出す。 だがゼストは振り下ろしに合わせ左に回避、握った左拳が少年の腹部を捉えると、そのままゴミ捨て場まで吹っ飛ばした。 ゼストは今度こそ、この場を後にしようと背を向けると少年はゆっくりと起きあがり大剣を肩に構える。 ゼストはまだやるのか?とあきれた表情を見せるが少年の一言に顔色を変える。 「バハムートティア!カートリッジロード!!」 「何ぃ!?」 少年は叫ぶと大剣バハムートティアから二つ薬莢が排出されると、刀身が熱せられた鉄のように真っ赤に染まっていく。 ゼストはその様子を見るやデバイスを起動させ、少年に向け振り払い衝撃波を作り出した。 「奥義!ファイナリティ―――」 少年が技を繰り出す前に衝撃波はバハムートティアを弾き少年を直撃、壁に激突すると少年の意識を刈り取った。 ゼストは驚愕した、この世界でカートリッジシステムを持ち、更に使いこなしている少年の存在に。 驚きを隠せないゼストであったが、自分の目的を思い返しその場を後にした。 数十分後、少年は起きあがると敗北感からか悔しそうに拳を地面に叩き付けていた。 そして少年の胸の内にゼストへの復讐心が燃え上がっていた。 その後、ゼストは幾つか犯人が寄りそうな場所を訪ねたが、有力な情報は得られずにいた。 宿屋に戻ったゼストはウィスキーが注がれたグラスを片手にモニターを開いていた。 モニターには女性の姿が映っており連絡を取っている模様だった。 「申し訳ありません隊長、本来なら私の任務なのですが…」 「いや…構わんクイント、それに面白い物を見つけたしな」 画面のクイントは首を傾げると、ゼストは昼間に起きたことを語り出す。 昼間、路地裏で一人の少年がゼストに襲いかかった。 その少年の一撃はゼストには届かなかったが、一つ一つが鋭く重みも見て感じたと、 だがそれ以上に驚いたのはその少年はカートリッジシステムを使用していた事だと語る。 当時のカートリッジシステムは一部の近代・古代ベルカにしか使われておらず ゼストの仲間内でもクイントぐらいしか使い手がいないほどのシステムであった。 話を戻し、その少年はカートリッジを二発使い更にその魔力を制御していたと、酒が入っている為なのか饒舌に語る。 「アレは磨けば磨くほど光るタイプだ、こんな所で腐らせるには惜しい逸材だよ」 「隊長がそこまで言うのでしたら、管理局へ誘ってみたらどうです?」 クイントの提案に顎をなで考え込むゼスト、確かに次見かけたら誘ってみるか…そんな事を考えながらウィスキーを口にした… 次の日、ゼストは朝から聞き込み調査を行っていた、だが未だ犯人の手掛かりを掴めないでいた。 そして路地裏を転々と歩いていると昨日の少年が腕を組み仁王立ちで道を塞いでいた。 「小僧か……何のようだ」 「小僧じゃねぇ俺の名はアリューゼだ!!」 アリューゼは名乗りを上げ人差し指をゼストに向け突き指す。 「……ではアリューゼ、一体何のようだ、私はコイツを追うのに忙しいんだ」 そう言って懐から写真を取り出しアリューゼに見せる。 「なんだ…コイツか」 「アリューゼも何か知ってるのか?」 「…さぁな、だけどもし知ってたとしてもてめぇに教える気はないね!! 俺はてめぇみたいなスかしてる奴が大っ嫌いなんだよ!!」 「そうか…だが私はお前のようなバカは嫌いじゃないが」 「なっ!?」 思わぬ返答に動揺するアリューゼ、それを知ってか知らずか更に話を続ける。 「どうだ、私と一緒に管理局で働かないか?」 「…冗談じゃねぇ!誰がてめぇとなんざ!!」 「そうか……残念だ」 次の瞬間、素早く回り込み延髄に一撃をお見舞いすると一瞬でアリューゼは意識を失う、 ゼストは少し卑怯だったかなと考えつつも本来の任務を続行した。 それから約一週間が過ぎても、未だに手掛かりが掴めないでいた。 ゼストはここの住人は余所者に対し冷たい印象を感じた。 それもそのハズ、戦時中はスパイやテロ活動などが頻繁に行われていた為、住人の警戒意識は高く聞き込みをしても断られる事が多いのである。 路地裏で途方に呉れているとアリューゼがやってくる。 「よぉ、おっさん」 「何だアリューゼか……何のようだ…」 「随分だな、折角奴の情報を持ってきてやったのに」 アリューゼは一枚のメモを見せ付ける、それは犯人の居場所を示すメモであった。 此処の住人にとって犯人は鼻つまみ物で逮捕されるのは願ってもない事だと語る。 だが管理局が逮捕するのは面白くない、その為冷たい反応を示していたと。 だが現地の人間には甘いらしく、アリューゼはいとも簡単に犯人の居場所を突き止めたと語る。 「……でいくら欲しいんだ?」 「金じゃあ渡せねぇな」 そう言うとデバイスを起動させ、ゼストに向ける。 「俺と勝負しろ!てめぇが勝ったら情報はくれてやる、だが俺が勝ったら俺の手下になれ!!」 「…分かった……いいだろう」 ゼストはアリューゼの申し出を了承するとデバイスを起動させ構える、そして二人は激突した。 それから数十分後、路地裏には鼻から血を垂らしたアリューゼが大の字に倒れていた。 アリューゼは目を覚まし起きあがろうとするが、体が言うこと聞かずそのまま力尽きる。 「ちっ……完敗か」 敗北を認めたアリューゼ、その瞬間胸の内に沸いていたゼストへの敗北感や復讐心が一気に抜けスッキリした気分を感じていた。 そしてアリューゼは空っぽになった胸の内に一つの決意を秘めると、ゆっくりと起き上がり場を後にした。 その後アリューゼからもたらされた情報を元に犯人を確保、ゼストは空港で護送機を待っていた。 暫くすると護送機が着陸、護送機にはクイントも同行しており犯人をクイントに受け渡すと、ゼストは昇降機に足を伸ばす。 すると後ろから呼び止める声が響く、振り返ると其処にはアリューゼが立っていた。 「もう動けたのか、それにどうやって此処―――」 「おっさん!よく聞け!俺はもっと強くなって、てめぇの所でいつかてめぇをこき使ってやる!覚えてろ!!」 「アイツ……私はおっさんじゃない!ゼストだ!!」 お互いに叫び合い人差し指で指すと、ゼストとアリューゼは笑みを浮かべる、そしてゼストは昇降機を登りきるとアリューゼに言い放つ。 「強くなれよ!アリューゼ!!」 「ったりめぇだ!!」 アリューゼの返事を聞き護送機へ入っていくゼスト、そしてそのまま護送機は離陸した。 その姿をただただ見つめているアリューゼであった。 護送機の中ゼストは窓の外を見つめていた、すると隣にクイントが座ってくる。 「隊長、あの子が隊長の言ってた?」 「あぁ、アイツは強くなる」 そう言うと微笑むゼストであった… …それから数年後、首都航空隊の新兵の列には、 黄緑かかった髪に派手な格好の少女やオレンジの髪の真面目そうな青年などがおり、 その中で茶髪でオールバックの管理局の制服を着たアリューゼの姿があった…… 目次へ 5話へ
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第零話『永劫の開演』 其処は様々な色彩が混濁した、異形の闇だった。 昏く淀み、白く醜く、ありとあらゆる色彩表現から逸脱された怪異に侵されし闇だ。 その邪悪に彩られた世界の中心、ヒトのと呼ばれる生命を模された影が、舞台の中心で踊るように両手を掲げる。 ―――哂(わら)いながら。 『ハハっ……予想だにしなかったよ、今回の結末は。やっぱり九朗君は何処までも僕の予想を裏切ってくれるねぇ。 それもまた一つの物語、陳腐で愛すべき、最も忌むべき刹那の永劫!』 それは、余りに邪悪過ぎた汚濁の微笑みだ。 あらゆる感情が唸りをあげて混ざり合い、感情という想念を越えた怨嗟の叫びだ。 度重極まったその憎悪は―――然り、愛と似ている。 純粋で真っ直ぐ過ぎたその邪悪は、相反する愛情となんら変わりばえが無いと言えた。 影は―――『女』は、哂い続ける。 目の前の混濁の海に漂流する、一つの『黒い人影』を見据えながら、嘲笑を零した。 『だが、そんな刹那の永劫もこう何回と続けば飽きちゃうモノだよね。―――ほんの少しくらい、“お遊び”をしたって誰も文句は言わないさ』 そうだ。 あの無限の檻に囚われた『二人の王』の御伽噺。 よもやあのような結末になろうとは、如何なこの『女』としても計り知れぬコトじゃなかった。 だからこそ。あれくらいの枝の数では、足りないのだ。ならば増やそう。 枝の数を増やし、彼等をそれに絡めさせ、さながら人形劇のように操り続けようと。 用意をするのは簡単だ。 だが物語(セカイ)の骨子(プロット)を推敲するには少しばかり時間が必要だ。 だが、無限輪廻においてかの二人の王を育て続けた『女』だ。これくらいの時間、刹那すらほど遠い。 が――、それでは少々無粋だ。いくらあの“女”とて、遊びを欠いては飽きてしまう。 せめて、そうだ。 『もっと別の御伽噺』を作って観るのも悪くは無い。せめてもの『暇潰し』だ。 道化は道化らしく、お遊戯は丹念に清々を篭めて、子供のような邪悪を孕ませたつまらない御伽噺を作っていく。 ―――それが彼女、『無■■神』である『■■■■ラ■■■ッ■』が思いついた戯れ事。 ―――『女』は溺死体のように闇の海をたゆたう『男』をまた見つめ、愉快げに手を差し伸べた。 黒い装甲は所々剥がれ落ち、元々あった筈の顔を覆う仮面は先の戦いで破壊され、少年のようなあどけない寝顔をさらしている青年。 かつて実の姉に殺され、恨み、妬み、辛み、憎悪の限りを以って殺し愛った黒き天使。五つ目の黒き堕胎。 『だけど“それが良い”。ずっと昔から壊れている人形が、どんな風に踊ってくれるのか。 それを見届けるのもまた一興。泡沫に消える楽しい一幕さ』 邪笑。 『女』は本当に楽しそうに、身を捩(よじ)りながら、悶えるように、喘ぐように謳う。 ……狂騒劇の始まりを! 狂った御伽噺を! 嗚呼、愚痴たる人間を贄として、儚くも強壮な物語を! そうして、『女』は告げた。 狂った笑顔で。無の貌(かお)で。灼ける三つの眸に孕ませた、苛烈に熾(おこ)る憎悪と愛を以って。 『―――では、始めよう! 君は僕に愛される資格を手に入れられるのか! それともただの陳腐で唾棄すべき存在のままでいるのか! 嗚呼、君が踊る演目は一体どんなモノなのだろう。ワルプルギスの再来か、グランギニョールの狂喜か!』 歓喜に似た声は感極まって、この混沌たる闇の世界すら歪ませる程の邪悪が詰まった笑い声を発する。 一頻り喋り終わり、呼吸を整える。 そして、期待に心を膨らませながら、憧れるように、恋焦がれるような静かな声でこたえた。 『それとも―――そう。この邪悪に冒された狂騒劇を、荒唐無稽に無理やり終わらせてくれる ―――“デウス・エクス・マキナ”へと成り果てるのかな?』 その言葉を最後に、『女』は己が欲にのまれながら狂喜して、暗き混濁の海にたゆたう黒い影……『男』の周囲を円形状に歪めていく。 カチリと、鍵の音が響いた。 この世界から、異なる世界へと通じさせ/転移させ/開闢させて。 『女』は尚も哂う。 言わせてみれば、総ては決まったコトなのだ。この遊戯も。この物語も。 『そう――――総ては、ナ■アル■ト■■■■の意のままに!!』 * 主役は憎悪に焦がれた黒い影。 深く淀んだ恩讐と殺意は、時として愛によく似ていた、最後まで愚かであり悲哀であった男。 黒き天使の名を冠する復讐者。 ヒロインは未だ壇上に昇らず。影は独り、絶望に酔いながら踊り狂う。 ……されども。 『――否(いや)! まだだ、まだ間に合う!!』 一つの、脆弱な光が必死に叫ぶ。まだ絶望するには速いと。 否、絶望などさせるものかと。 だがその光も、この壇上という囲いの外に在る。舞台に上がるには未だ至らず。 未完成の箱庭。 不実の輪。 蛇の輪舞曲(ウロボロス・ロンド)。 それでは、始めるとしよう。 白き王の紡いだ荒唐無稽の御伽噺とはまったく別で、それでも、その愚かな生に縋って足掻き続ける、弱く、醜く、そして愛すべき物語を。 『機人咆哮リリカルサンダルフォン』、開幕。 目次へ 次へ
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第五話「嵐の前」 「シグナム、そっちに行ったぞ!」 「分かっている!」 とある砂漠だらけの星で、シグナムと俺はミミズのような体をした巨大な生物と相対していた。 目的はもちろんリンカーコアの蒐集、このサイズならば結構な量のコアが取れる。 「シュランゲバイゼン!!」 ガシャン レヴァンティンの柄の一部が前後し、カートリッジを一発消費、その身を一変させる。 そしてシグナムは雄たけびと共に自らの得物を振りかぶり、突撃していく。 ズガシャァッ!! GYAOOOOOOOOOOOOON!! 掛声と共に振り下ろされたレヴァンティンが砂竜へと叩き込まれ、砂竜は断末魔を上げながら砂の海に倒れた。 得物を鞘に戻しつつ、完全に気絶したことを確認したシグナムが声をかけてくる。 「よし、これでまたページが増える。いい動きだったぞ、ゴウ」 「いや、俺がしたのは軽い援護と気を引くことぐらいだった。今回はお前の手柄だろう」 「そうでもないと思うぞ。飛行魔法もだいぶ上達したし、魔力コントロールも上手くできたんじゃないか?修行の成果が出てると私は思うがな」 ふむ、と俺は自身の手のひらを見つめる。自覚はあまりなかったが、魔導士としての実力は着々と付いているらしい。 俺は自らの中にあるモノを確かめるように、その手を握り締める。 『と言っても、時折私が補助しなければならなかった所も多々ありましたがね。さっきなんか飛行に使う魔力が途切れて落ちかけてましたし』 腰の後ろから聞こえてきた声に、握った拳どころか全身の力がガクッと抜けるのを感じた。 俺は腰の鞘から刀型デバイス「陰牙」を引き抜いてそれに向けて言う。 「感謝は一応するが、一々余計な口を挟むな、陰牙」 『ですが事実は事実です。大切なのは失敗することではなく、失敗を次に活かすことなのですよ、主』 「お前に指摘されるほど馬鹿じゃない。いいから口を閉じてろ」 『認めたくないものですね、若さ故の過ちとは・・・』 「術の的にしてもいいんだぞ…?」 『・・・・・・・・・御意』 ようやく黙った陰牙をしまってシグナムの方を見ると、腹を抱えながら肩を震わせていた。 …はやてみたいな笑い方をしやがって。 「…笑うんじゃない」 「ス、スマン…ブフッ!デバイスと口喧嘩するやつなんて初めて見たんでな…ククッ」 「こいつが口うるさいんだから仕方がないだろう。こっちもいい迷惑だ」 「そうか?結構仲が良さそうに見えるがな」 「フン、まぁいい。それじゃあとっとと蒐集して移動するぞ、長居は無用だ」 「ああ」 『御意』 シグナムは答えたあとリンカーコア蒐集の術式を発動させ、蒐集を開始した。 …俺はふと、なんだか妙な気分になった。 ほんの半年前までは、俺は孤独に生き、一日をただ与えられる任務に費やすことばかりの生き方だった。 それが今では、仲間と共にこんな辺鄙な世界に渡り、魔法を駆使して闘っている。 …仲間、か。 多分俺は、嬉しいのだろう。あの夜失ったもの、望んでも永久に戻らないものと、再びいられて。 そして、こんなろくでなしの男を家族と呼び、受け入れてくれた少女と出会えて。 本来ならば、道を踏み外した男が得るには余りにも過ぎたものだろう。 だが例え共にいることによって罰を受けるとしても、いつかあの場所に帰る時間が来るまで、あいつらと共に生きたい。 そしてあの少女を、はやてを助けたい。今心にあるのはそれだけだった。 (フ…そういえば、誰かからの依頼ではなく、自分の意志で何かの為に動くのは今回が初めてだな。俺もどこか変わったな) 口元を覆う布の下で自嘲的な笑みを浮かべつつ、俺はシグナムの方に振り向く。 しかし、俺はその時見た。シグナムの背後の砂が不意に盛り上がるのを。 蒐集に集中しているシグナムは気がついていない。 「シグナム、後ろだ!」 「何っ!?」 警告を受けたシグナムは危険に気づき、慌ててその場を回避する。 直後、飛び出してきた小型の砂竜が数瞬前までシグナムのいた場所へ向けて喰らいついてきた。 「新手がいたのか…危ない所だった……」 「迂闊だな。物事の終わる瞬間は一番気が緩むんだ。油断するな」 「スマン……って、さっきまでデバイスと漫才やってた奴には言われたくないっ!!」 怒りの四つ角を額に浮かべながら指さしてくるシグナム。残念ながら否定はできなかった。 『一本取られましたね、主』 呑気に言う陰牙。誰のせいだと思ってるんだ。 「冗談はさて置きだ。どうやら幼生体らしいが、こいつも倒せば二匹分の蒐集が出来るな」 「丁度いい、もう一匹…」 「シグナム、ここは俺にやらせてくれんか?」 「え?」 やる気満々のシグナムを制し、俺は言った。 「今度は俺が前面に出る。力が付いているのなら、自分の実力を確かめたい」 「そこまで言うならい構わんが。大丈夫か?見てたろうが、奴は手ごわいぞ?」 「心配してくれるのか?烈火の将殿」 「仲間、だからな。あの夜互いに誓ったろう?」 シグナムは意味ありげに微笑んだ。 俺もその言葉に口元を緩める。 「そうだったな」 「それに、おまえは魔法を教えている弟子みたいなものだ。弟子にこんな場所で死なれちゃ寝覚めが悪い」 「弟子入りしたつもりは無いんだがな…さて、始めるか」 気を引き締め直し、砂竜と向き直る。 凶暴な野生動物の発する闘気が、ビリビリと肌に伝わってくる。 (宇高多の暴れ熊もけかなりのものだったが、コイツはそれ以上だな。…だが負ける気は無い) GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!! 砂竜の叫び声を合図に、戦闘の火蓋は切って落とされた。 俺は牽制に手裏剣を形成し、続けざまにして投げつける。 しかし、相手のほぼ全身を覆う鎧甲の固さに、放った手裏剣はひとつ残らず弾かれ、消える。 「やはりこの程度では威力不足か…ならば…むっ!」 次の手を考える暇も与えず、その巨体からは考え付かぬ速さで砂竜が突撃してきた。 俺はとっさに上方に飛び上り回避する。 体力、力、丈夫さ、どれをとっても予想以上だ。 だが、所詮は獣、知恵に関してだけは人間に分がある。 俺は懐から自作の煙玉を取り出し、砂竜に向けて投げつけた。 投げたのは忘却玉。一時的に頭の中を真っ白にしてしまう代物だ。 ボンッ!! 鼻先に当たった忘却玉は期待どおりに効果を発し、砂竜の動きを止める。 元々人間用のものだし、あの巨体にそうそう長い時間効いているとは思わない。 だがそんなわずかな隙でも、開発したばかりの術をぶち込むには十分な時間だった。 左手に魔力を集中。作るのはさっきも作った手裏剣状の魔力弾を多少大きくしたもの。 しかし、それだけでは終わらない。その手裏剣の中央に、さらに魔力を集中させ、「球」を形成する。 そして徐々に形になるそれに、性質変化で爆発の性質を持たせる。 手裏剣だけでは威力が足りない。爆裂弾では速度も誘導性も無い。 なら、二つを足せばどうだ。高い威力を持った、高速誘導弾ができるのではないか。 考えは安直かもしれないが、十分な結果を出せるのなら発端など糞くらえだ。 今の俺には確かな力がある。それを使って必要な結果をもぎ取るだけだ。 そして「それ」は実戦で初めて日の目を見る。 喜べ、ミミズもどき。生物相手に使うのはお前が初めてなのだから。 俺は、出来上がったそれを、修練の結果の一端を僅かに見たあと、砂竜へ向けて放つ。俺の「力」の結晶の名前を叫びながら。 「火車剣、行けよっ!」 手裏剣よりやや遅く、しかし今までの爆裂弾とは段違いの速度を持ったそれは、吸い込まれるように静かに近づき、そして轟音と共に破裂した。 瞬間的に周囲を包んだ光が消え、後には鎧甲に大きな焼け焦げを作った砂竜の姿があった。 呼吸が荒くなっており、出てきた時より強い殺気が視線から感じられる。これはキレたな。 俺はその光景を見ながら、対人戦には余り向かないとか、もう少し速度を上げた方が良いか等と考えていた。 自分が変わったなどと思っていたが、戦闘者としての俺の根幹は変わっていないし、錆ついてもいなかったらしい。 「ふむ、あの図体の相手にあれだけ損害を与えられれば威力は十分か」 「やるじゃないか。いつの間にこんな技を」 「つい最近な。それよりまだ仕留められんか……手負いの獣は厄介だからな、暴れだす前にケリをつけるか」 「どうする気だ?」 「それなんだが…お前のさっきの技を見て閃いたものがある。技を借りることになるかもな」 「面白そうだ。見せてもらおうか、弟子よ」 「だから弟子と呼ぶな!」 会話を終わらせた後、俺は左手の手甲を砂竜へ向け、そこから魔力のワイヤーを発射する。 放たれたワイヤーは陰牙の操作により、さながら蛇のごとく砂竜の体に巻きついていく。 砂竜は叫び声をあげてワイヤーを引き千切ろうとしているが、ひっぱる傍からどんどん伸ばしているし、その程度でコイツは切れやしない。 大蛇が自分より小さな蛇に巻きつかれているように見えるその様は、滑稽かつ皮肉なものに見えた。 頭部から体の中ほどまで縛り付けた辺りで、ワイヤーを切り離す。 そして告げる。相手にトドメを刺すべく、感情を込めない声で、最後の言葉を。 「爆ぜろ」 直後、さっきのが爆発が手持ち花火に見えるほどの爆風が広がる。 一帯に煙が濛々と広がり、それが晴れた時見えたのは完全に気を失い、倒れ伏す砂竜の姿。 「流石にこいつは効いたようだな」 「ほぉ、シュランゲバイゼンからヒントを得たのか。しかしよく思いついたな」 「現場での咄嗟の閃きも、忍の術の一つだ」 「ふむ、成程。時に、この技の名は?」 「たった今作ったからな、未定だ。せっかくだから、お前が付けてくれんか?」 「私が?」 「元々お前の技から思いついたんだ。名付け親を頼みたい」 「わかった。では…シュランゲバイゼンの蛇の名を冠し、火蛇(かだ)なんてどうだ?」 「ふむ、まぁ悪くない。それでいいな」 「決まりだな。…ん?」 「何だ?」 「ザフィーラから通信だ。海鳴市でヴィータが敵と交戦中で支援が要るらしい」 「行ってこい。この場は俺が引き受ける」 「そうか、すまない。では頼んだぞ」 話を切り上げ、シグナムは転移魔法で移動していった。 さて、俺は蒐集と… 『主、複数の生体反応が接近中です』 三下共の相手をしてやらなきゃならん。 「分かっている」 さっきの奴と同じ大きさの砂竜が三匹、タイミングを見計らったように出てくる。 察するに、自分たちの親兄弟の仇打ちってところか。 こいつらにそんな知能があるかなんぞ知らないが、こっちにすれば好都合だ。 「許せ、などとは言わない。恨んでくれていい。 理不尽な暴力を行った罪も業も、全て背負う。だから……貴様らのコアも、頂いていく!」 そして俺は陰牙を引き抜き、襲いかかる砂竜の群れに単身突っ込んで行った。 「フゥ……流石に、三体同時相手は骨が折れたな」 砂竜に辛くも勝利した後、近くの岩場で腰を落ち着けていた俺は、溜息とともに漏らす。 『主、体内の魔力量が限界近くです。今日はもう引き上げましょう』 「ああ。だがその前に…」 俺は立ち上がると同時に、ワンアクションで手裏剣を構成、背後の空間に投げつける。 すると何もない筈の空間が歪み、仮面をつけた長身の男が姿を現した。 「貴様が何者か、話してもらおうか。次弾を当たられたくないならな」 「これは驚いた・・・まさかバレていたとは」 「姿を消せば分からないと思っているのは三流だ。絡みつくような気配がヒシヒシ感じられたぞ?」 「なるほど・・・これはうっかりしたな」 言いながらも男に焦るような様子は見られない。 いざとなればすぐさま斬りつけられるよう構えながら、俺は尋問を始めた。 「貴様は誰だ。何故俺を見ていた?」 「お前の実力を確認していた・・・。」 「何?」 「私は闇の書の完成を望む者、とだけ言っておこうか・・・」 「ッ!? どういう意味だ!」 「教えるのはここまでだ。この先はお前には知る権利がない・・・」 「立場が分かっていないのか?」 「無理をするな・・・さっきの戦いで体力も魔力も残り少ないのだろう・・・?」 「…チッ」 舌打ちをして、俺は鯉口を切っていた陰牙を元に戻す。確かに、もう一戦渡り合えるほどの余裕はない。 「さっき言ったとおり、私は闇の書が完全に目覚めればそれでいい。それだけだ・・・」 「どうだかな」 「勘ぐらなくていい・・・ではな」 そこで会話を切り、男は足もとに魔方陣を展開し、溶けるように消えていった。 「…陰牙、奴の後は追えるか?」 『不可能です。恐ろしく厳重に追跡防止の術式が使われています』 「くそ…仕方がない、戻るぞ」 『御意』 俺もまた魔方陣を展開し、地球へと帰還した。 「お帰り、ゴウ。随分かかったな」 「ああ、ただいま。はやてはどうした?」 「今、ヴィータとシャマルと一緒に入浴中だ」 「そうか。で、“ソッチ”はどうだった」 八神家に戻った俺は、リビングにいたシグナムとザフィーラと情報を交換し合う。 「かなり良質のリンカーコアが蒐集できた。10ページ以上はある」 「それは重畳」 「だが悪い知らせもある。管理局の次元航行部隊の人間に姿を見られた。今後は蒐集がし辛くなる」 床に寝そべっていた獣形体のザフィーラが不意に口を挟む。 「次元航行部隊?」 「次元航行艦で各世界を渡り歩いている部隊のことだ。戦闘員のほとんどが空士で、そこらの雑魚より手強い」 「だがザフィーラ、管理局とは一度やり合ったじゃないか?」 「あれは地方の一警備部隊だ。おそらく違法魔導士くらいにしか思われていないだろう」 「だが次元世界を移動する部隊となると話は別だ。我々の過去の情報も調べられているだろうし、反応を検知されれば即座に飛んでくる」 「以前の連中とは別格ということか」 「うむ。それに因縁も出来てしまった」 そう言って自分の上着をめくるシグナム。そこには横一文字の赤い傷痕があった。 「食らったのか?」 「ああ。剣技には自信があったが、一撃な。武器の差がなければどうなってたか…。あいつはきっと、今後も私の前に出てくるだろうな」 その時のシグナムは、心なしか嬉しそうに俺には見えた。 戦闘狂もほどほどにしてほしいものだ。 「それでゴウ、お前の方はどうだった」 ザフィーラに促され、俺は仮面の男のことを思い出したが、この場ではあえてまだ話さなかった。 俺は回収したコアを渡し、そのまま自室へ行って休むために着替えて布団に入る。 薄暗い部屋の中、天井を見上げながら物思いに耽っていた俺に、机に置いた陰牙が話しかけてきた。 『よろしかったのですか、主?』 「何がだ」 『あの仮面の男のことを話さなかった事です』 「情報が少なすぎる。それに余計な懸案事項を増やすのは得策じゃない。あいつらの不安を更に煽ることになる」 『そうですか』 「もう一度現れたら、その時には話す」 『了解。それでは主、良い夢を』 「ああ」 (敵対はしないなどと言ってたが、目的を明かさない辺りが信用できん…このままでは終わらんだろう。 一荒れ、来るかも知れん…な…) 溜まっていた疲れには勝てず、俺の意識はそのままゆっくりと闇に落ちていった。 ちなみに翌朝起床した後、昨晩風呂に入らなかった事を思い出して朝風呂に入ろうと向かったところ、先に入っていたシグナムとバッタリ遭遇。 顔を真っ赤にしたシグナムにしこたまブチのめされたのはあまり本筋とは関係がない話だ。 続く。